感想:『海からの贈物』 『海からの贈物』(著:アン・モロウ・リンドバーグ 、訳:吉田健一、新潮文庫) 初出は1955年。機械文明の発展による家事労働の軽減と女性の社会進出を背景に、妻であり母である一人のアメリカ人女性が俗世から切り離された離島での生活の中で得た「海からの贈物」を元に女性の生き方について提唱するという内容。 夫が日中は仕事に出かけて経済面で家庭を支えることを主とする一方、妻が子供の世話やご近所付き合いなど家庭の実務を取り仕切るという構図は当時のアメリカも同じらしく、また妻にとっては仕事場と家庭は同一である為にしがらみから解放されるのが難しいという現状があるという。 女性が仕事と生活を両立させ、尚且つ自分自身が満たされるためにはどうすればいいのだろうか。本書ではその為の指針として下記のようなものを挙げている。 「人生に対する感覚を鈍らせないために、なるべく質素に生活すること」 「体と、知性と、精神の生活の間に平衡を保つこと」 「無理をせずに仕事をすること」 「意味と美しさに必要な空間を設けること」 「一人でいるために、また、二人だけでいるために時間を取っておくこと」 「精神的なものや、仕事や、人間的な関係からでき上がっている人間の生活の断続性を理解し、信用するために自然に努めて接近すること」 離島での生活の描写が与える純粋なイメージの効果もあり、先達の提案を大事に受け止めようという気概も起こされるが、それ以上に、実感ではなく理屈で改めて認識される競争社会で生きることの息苦しさに関心が強まった。 挫折や妥協なんてものは私の身の回りですらありふれているから、つい看過してしまうけど、せめて自身くらいは人畜無害でありたいなと切に思う。 PR