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感想:「殺意(ストリップショウ)」


殺意(ストリップショウ)」(著:三好十郎)



 ストリップショウの舞台で引退の間際の演目として女が独白する形式の戯曲。
 太平洋戦争への機運が高まり始めた頃、九州の田舎の生まれの美沙子は兄の勧めで上京し、兄の先輩である「山田先生」のもとで女中として働くこととなる。
 美沙子は先生の掲げる左翼思想を只管に吸収しながら、劇団での活動を続ける内に戦争が激化。特別女子挺身隊員として度重なる空爆に耐えながら飛行機工場に勤務する内に終戦を迎えるも、戦後の彼女には何一つ残されてはいなかった。
 売春の縁からストリップダンサーに転身し生計を立てていた美沙子は、かつて世話になっていた「山田先生」が表向きは左派の学者として、父として立派な人間であるように振る舞っていながら、或る女と不倫関係を持っていることを知る。
 純粋な少女の時分から先生の思想を頼りとしていた彼女は自分の苦境の元は先生にあると考え強い殺意を抱いていたが、盲目的に女の奴隷となって貢ぐ姿の余りの浅ましさに嫌気がさし、殺意も薄れてしまう。
 最終的には、真実なのか作り話なのかを曖昧にしながらあくまで「演劇」ということで幕を下ろす。

 戦争というものの中でも取り分け、左翼思想に人生を翻弄された哀れな女の話。「先生」を盲目的に信仰して、その思想が社会や倫理に即しているかの判断さえも放棄しているあたりが自業自得と言えなくもない。
 自身の過去の独白をストリップショウの中で行わせるという構図の意図は十二分に発揮されていて、最終的に曖昧にしてはいるが、台詞だけでも真に迫った感情が読み取れる点は高く評価できる。
 内容や文体については美沙子という個人の激情の発露が叶っている点以外では、やはりセクシャルな舞台設定が基盤となっているためか下卑な表現が多く、また、回顧的な恋愛の下りも自己陶酔が酷くて口に合わなかった。
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