■ 収録作品

・「ナポレオン狂」
・「来訪者」
・「サン・ジェルマン伯爵考」
・「恋は思案の外」
・「裏側」
・「甲虫の遁走曲」
・「ゴルフ事始め」
・「抉れた夜」
・「透明魚」
・「蒼空」
・「白い歯」
・「狂暴なライオン」
・「縄―編集者への手紙―」

---

　1979年に直木賞を受賞した阿刀田高の短編集。
　最後の数頁で急に印象を変える仕掛けが良く効いた作品が多い印象。

　単純にトリックで見せるだけでなく、無駄のない人物描写による現実感を活かし物語の展開に説得力を持たせるのが非常に上手い。

　また、作中で披露される哲学も興味深い。
　例えば、「サン・ジェルマン伯爵考」では不死の伝説を持つサン・ジェルマン伯爵を亡き父の知人として登場する。伯爵は不死とは子供を成し種を保存することだと語る。ただそれだけでは屁理屈に過ぎず、主人公の前に姿を現した不死そのものといえる伯爵へ論理的な繋がりが見えないが、主人公の子供が生まれたことを見事に予言した後、吸い差しのフランス煙草を残して姿を消す。
　不死の人間に対する現実的な解釈の一つを、どこか納得のいかない部分も含めて不可思議さと合わせて綺麗にまとめており、読後感の印象によって主人公に共感を深められるのも面白い構成だと思われる。

　収録作の中では「抉れた夜」が好み。いよいよ結婚と決まった時、世の男性が”しまった”と思う心根を題材に逃げ出した先の運命を描いた作品。主人公の回想に浮かぶ少年時代の情景との結びつき方に独特の世界観が有り趣深い。