感想:『老人と海』 『老人と海』(著:アーネスト・ヘミングウェイ) 本作は、長年の経験を以ってしても御することの困難な巨大魚に挑む、老人の孤独な闘いを描いた中編小説。無意味に小難しいことを言わずに物語を例えると、テレビ番組にあるマグロ漁師のドキュメンタリーが雰囲気的にかなり近い。 終始苦しみの中にあるのに不思議と充実しているその姿は、自身の人生も真剣に挑戦するものでありたいという気持ちまでも喚起する、生きた人間を最大限に描いた小説の一つだと感じた。 長い時を経て知識や技術、思想を堆積してきた正に「成熟した人格」というべき老人の頼もしさと、生死をも賭けた困難な状況の対比は構図としても優れているが、どんなに経験を積んだ人間でも自然に対しては矮小な存在であるという普遍性や人間としての不完全さが、現実感に通じているという点も感情移入しやすくなる親和性が生まれて良かったと思う。 この作品を読むまでは、食用の目的以外の釣り人に対して、徒に生物を傷つける存在という偏見を持っていたが、なるほど自然に対して挑戦したいという心理によるものかと納得できた。 久しぶりに研究論文などにも手を伸ばしてみたが、「環境文学テキスト」としての読解や、最後のシーンで老人が見るライオンの夢を無意識の再生願望とする解釈などが面白かった。 PR