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感想:『車輪の下』


『車輪の下』(著:ヘルマン・ヘッセ、訳:実吉捷郎、岩波文庫)


 1887年南ドイツに生まれた作者ヘルマン・ヘッセが自身の少年時代の遍歴を基にした作品で、シュワルツ・ワルト地方の小さな町に生まれた少年ハンス・ギイベンラアトの生涯を描いている。
 心身ともにか弱いながらも秀才肌の少年が、親や教師の引いたレールに沿って実直に歩進むことに疑問を持ち、悪友との友情を選んだことから社会的、または精神的にも次第に転落していく不条理さや、未熟な少年である主人公に対する理解者が現れず、自殺を意識するほどの苦悩に一人苦しむ様子が印象的。

 大自然が見せる表情豊かな美しさの描写が実に色彩豊かであり、情景の描写として適切に用いられているのも特徴的である。「暑くなってきた。このいくつかの動かない小さな雲――静かに白々と、青空のあまり高くないところに、浮かびながら、長く見つめていられないくらいに、光りがいっぱいしみこんでいる雲ほど、清らかな真夏の日のあつさを、表現するものはない。」という一説等からも作者の観察力と感受性の高さがうかがえる。

 表題にある「車輪の下」は「おとなの無理解、利己主義という、ざんこくな重たい「車輪のした」で、あわれにもあえぎつづけながら、とうとうその圧力につぶされてしまう少年の運命」を表象したものと解説がある。大人の作る社会批判的な捉え方の他、作者自身の反省から次世代の子供たちに自身で人生を切り拓く生き方をして欲しいという思いがあるようにも感じられた。
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