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感想:『天の光はすべて星』


『天の光はすべて星』(著:フレドリック・ブラウン、訳:田中融二、ハヤカワ文庫SF)


 1953年にアメリカで発表されたSF小説。
 発表時から50年近い未来である1997~2001年のアメリカを舞台にしており、57歳の元宇宙飛行士であるマックス・アンドルーズが人類史上初の木星への有人ロケット計画に向けて奮闘する物語。

 終始淡々と順当に事態が展開していく為、物語としては退屈な印象。
 しかし、人類の宇宙進出がすっかり下火になってしまった時代を背景に描かれる星屑達(宇宙に魅了された人々の形容)の様々な熱意は確かな魅力がある。

 テレキネシスという物質的な方法によらずに物体にはたらきかける方法について、かなり確実な証拠があげられているらしい他は現代の科学と比較して非現実的なところが無く、寧ろ作中作のSF小説を引用して批判的な態度を見せている。
 惑星間移動の方法として、精神に肉体を運ばせるというテレポーテーションの試みも登場するが、アヘンと断食による幻覚と仄めかされている。

 発表当時のロケット開発事情は分からないが、月面着陸が1969年7月のことなので技術的な解説は相当に空想によるものがあると思うが、不自然な感じが無いばかりか作中作のSF小説の効果により独特の雰囲気がある。

 老人というには早いが、十分に年を取った主人公が情熱的な恋愛に陥るのはとてもアメリカ的。物語の展開に恋愛を組み込むことで主人公の人間性を強調したり、大衆娯楽性を高める効果を期待できるのは分かる。
 本作に於いても家庭を持つ弟との対比や熱意の伝播・継承、精神的な脆さの露呈など、様々な観点から主人公の恋愛が物語上重要な要素だといえるが、個人的には食傷的。

 まとめると、「物語の展開は淡泊だが、主題や主人公の人間性が味わい深い近未来SF」。
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