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感想:『秘密の動物誌』


『秘密の動物誌』
(著:ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミラーゲ、監修:荒俣宏、訳:菅啓次郎、ちくま学芸文庫)


 偶然発見した動物学者の遺稿を整理し、発表した学術資料という体裁。但し、紹介される動物は12本の脚を持つトガゲから始まり、牙を持つウサギ、翼をもつゾウなど、既存の動物を継ぎ接ぎしたような奇妙なものばかりである。

 情報発信者が真実(厳密な意味での知的・客観的妥当性)を伝える場合、メディアの信憑性、情報受信者に抱かせることのできる信頼性という問題が発生する。この問題を「あからさまな遊び心にみちた美学上の実験によってしめす」ということを第一の目的として発足したのが『秘密の動物誌』というプロジェクトである。
 我々は、例えば博物図鑑や科学論文の記述に対しては疑うことなく事実として認めるが、UFOやUMAの写真や映像に対しては偽物であるとする否定的な立場で受け止めている。しかし、その一方で義務教育の教科書に載るような学術的な常識も覆ることがある。不確かな情報を不確かな信頼によって真実であると認識しているのである。

 『鼻歩類』ほど生物に対して詳細に、専門的に取り扱わない為、説得力にかける部分もあるが、そのような部分も含めて、ファンタジーとしての娯楽だけでなく、情報に対する真実と虚構の判断について再認識を齎してくれる良書であった。

 ささやかな不満点としては、本著の本質に触れるでもなくちぐはぐに引用のロープを付け足した荒俣宏氏の日本語版解説及び、自己陶酔に満ちた主観的な茂木健一郎氏の文庫版解説が非常に蛇足。
 日本文化や日本人的感性から独自の考察を付け加えるのであればともかく、原著の解説部で完結しているものに対して、何故稚拙な付け足しを行ったのか、まるで理解できない。
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