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感想:「昔の火事」


昔の火事」(著:宮本百合子)



 歴史には明るくないが、「土地もちの連中があつまって、村から町になったとき、土地整理組合のようなものをつくった。新市街に編入されたというのも、近年こっち方面へ著しく工業が発展して来たからで、麦畑のあっちこっちに高い煙突が建った。大東京の都市計画で、この方面一帯が何年か後には一大工業中心地になるという話がある。」という文面と初出年(1940年)から推測するに、第二次世界大戦(1939~1945年)の影響を背景に工業化が急進している東京郊外を舞台としているようだ。

 細々と暮らしている庶民が地価高騰により利益を狙うという「土地持ちの連中」の一人、猛之介の視点から展開して、他人が売却した土地からの土器の出土、遺跡の発掘調査へと話題の中心を推移させる。
 最も興味深かったのは、視点が猛之介の孫である少年辰太郎に移ってからで、調査を担当する学者井上から「竪穴ではどうも火事を出したらしいよ」「こんなに灰があるし、このススキなんかは多分屋根だったのが、燃えおちた跡なんだろうね。」と遥か昔、太古の時代にここで火災があったという事実を辰太郎が知らされた時、この言葉により、遺跡が標本のようなものでなく、現実の住居の痕跡として火災の悲劇を感じられたという点である。

 工業化という未来と太古の遺跡、大人と子供という対比に加え、戦禍を暗示しているものと思われる火災の悲劇を少年の不思議な悲しみの内に表現したというのは素直に感服させられた。
 また、2016年の現代の読者にとってはこの小説内の時間さえも約75年という時間を隔てた過去であり、その時空間の隔たりがもたらす感覚が面白いと思った。
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