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感想:『古都』


『古都』(著:川端康成、新潮文庫)


 1961年(昭和36年)の京都を舞台に、生き別れた双子の姉妹の切ない交流を描いた作品。作中と同年の1961年10月8日から翌年1月27日まで、107回に渡り朝日新聞に連載された。
 また、作者の川端康成は『古都』の執筆について、次のように記している。「『古都』執筆期間のいろんなことの記憶は多く失われていて、不気味なほどであった。『古都』になにを書いたかもよくおぼえていなくて、かしかには思い出せなかった。私は毎日『古都』を書き出す前にも、書いてるあいだにも、眠り薬を用いた。眠り薬に酔って、うつつないありさまで書いた。眠り薬が書かせたものであったろうか。『古都』を「私の異常な所産」というわけである。」

 夢現の状態で書いた作ではあるが、物語の輪郭ははっきりしており、京都の四季や年中行事を通した確かな現実感がある。また、作中では主人公の千重子や、育ての父である呉服屋の主人太吉郎の視点を通して時代の急な変遷を捉えており、京都の伝統的な祭りの景色と「クレエの画集」のような海外文化、近代機械の象徴としての「ソニーの小型ラジオ」等との対比が相まって、移り行く日常の儚さが感じられる。

 執筆当初の構想は「小さく愛すべき恋物語」であり、双子の姉妹の物語となったのは意外なことであると物語っているが、互いに愛情を抱きながら境遇の差に思い悩む千重子と苗子の姿は伝統的な恋愛小説の様式と重なっており、作者が描こうとした少女の愛情という要素は家族愛という形で存続したのだと感じた。
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