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感想:「押絵と旅する男」と関連作


押絵と旅する男」(著:江戸川乱歩)
押絵の奇蹟」(著:夢野久作)
革鞄の怪」「唄立山心中一曲」(著:泉鏡花)



 『押絵と旅する男』は以前に読んだことがあったが、青空文庫に掲載されたのを機に再度読み直してみた。ついでに論文を漁ってみると、こちらの論文で泉鏡花と夢野久作の作品がルーツと思われる作品として挙げられていたので、そちらも流れで読んでみた。

 『押絵と旅する男』は蜃気楼を見に行った帰りの夕刻の汽車の中という語り手の状況や、不気味な紳士の描写などは丁寧で、作中全体の雰囲気という面では全体的に薄暗くはあるが、情景が色彩まで見えるようで実によいものだと感じた。
 しかしながら、押絵や双眼鏡によるものであろう超常現象の理由付けが弱く、御都合主義が垣間見えるのが個人的には難点だと思う。

 『押絵の奇蹟』は久作が得意とする奇縁を主題にした作品の一つで、女主人公トシ子が身の上の苦難と不思議について手紙での告白形式で語るものである。
 「押絵」という要素に関しては、まるで生きた人間をそのまま額の中に閉じ込めたような精巧なものという他には特別な点はないが、トシ子の姿が実の父ではなく歌舞伎役者の中村半太夫に瓜二つであることの考察に、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」や、架空の医学者である石神刀文の翻訳書「法医学夜話」などを根拠として提示しているので、一応の説得力があって興味深かった。
 また、トシ子と中村半太夫の実子である中村半次丈の恋愛は構成上必須ではあるが、こちらに関しては多少蛇足の感があり、余り興味をひかれなかった。

 『革鞄の怪』(『唄立山心中一曲』はその続編)は妻子と死に別れ天涯孤独となった男が、これから他人のものとなる新婦に偶然に出会い一目惚れをする悲哀が綺麗に凝縮されおり、幕引きも相まって、鏡花の初期作品である『外科室』に負けず劣らず鮮烈な作品という印象。
 タイトルにある「怪」の要素は、男の持ち物である大きな革鞄が意思を持っているかのように、偶然挟まった新婦の片袖を決して離さないというただそれだけではある。しかし、その革鞄は妻子の遺骨から父母の位牌、一切の財産までを収容した男のそれまでの人生そのものということを鑑みれば、自分自身を狂人と言いながらも冷静に罰を求める男の思いの真摯さが確かなものだと感じられた。
 鏡花に関しては、物語の構成はもとより、文体の素晴らしさを類似点のある作品を比べて改めて実感されられた。
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