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感想:『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』


『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』(著:魯迅、訳:竹内好、岩波文庫)


■ 収録作品
・「狂人日記」
・「孔乙己」
・「薬」
・「明日」
・「小さな出来事」
・「髪の話」
・「から騒ぎ」
・「故郷」
・「阿Q正伝」
・「端午の節季」
・「白光」
・「兔と猫」
・「あひるの喜劇」
・「村芝居」


 1918年~1936年に活動した中華民国の小説家魯迅の短編集。
 日本への仙台医学専門学校への7年の留学から帰国し、混乱した政治状況の中で作られた作品集『吶喊』の日本語訳。

 作品全体として政治的混乱による人民の不安や社会の昏迷とした様子や、貧困を要因とする精神失調が主題として挙げられている。
 小説家として「愚弱な国民の精神を改造する」という貴い理想に基づいている為、物語作品ではあるが、背景にある思想の主張が強い。また、表現に関しては訳の影響の為か拙さが見受けられる。特に、「阿Q正伝」は正伝の体をとっているが、文体が客観的事実を述べる形式に統一できておらず、違和感を覚える場面が多い。
 「故郷」は中学校用の国語教科書に採用されるなど日本でも馴染み深い作品だが、貧富の差と時間の経過を要因として齎された、嘗ての友人との心理的な別離や、その為の哀愁など複雑で繊細な感傷の表現が作品集の中でも群を抜いている名作だと感じた。

 また、歴史的背景として、辮髪の社会的意義が注目されている。辮髪自体が儒教の教えに則ったものであることから、これを断つことが反政府的行動の象徴とされていることなどは興味深かった。
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