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感想:『霧舎巧 傑作短編集』


『霧舎巧 傑作短編集』(著:霧舎巧、講談社NOVELS)


■ 収録作品
・「手首を持ち歩く男」
・「紫陽花物語」
・「動物園の密室」
・「まだらの紐、再び」
・「月の光の輝く夜に」
・「クリスマスの約束」


 通販で100円。それなりに評判が良かったので購入。

 非常に残念ながら、只管説明的な描写とご都合主義的でしかない展開が合わない。別シリーズの番外編的な立ち位置である為、そちらを読んでいればまた評価は変わるのだろうけど、駄作と言わざるを得ない。

 基本的なスタイルが、やたら人を見下す探偵役を持ち上げるために周りを無能で囲い、ウミガメのスープ並みの酷いこじつけを得意気に披露するだけ。ワトソン役だけならばともかく警察や犯人まで無能が多いのは如何なものだろうか。

 伏線の張り方が非常に雑ということもあり、トリックの面白さなど皆無という時点でミステリーに分類することも烏滸がましく思うが、「殺人」という禁忌を扱う作品でありながら、犯人の動機に関する記述が酷く説明的で情感が足りない為、物語的な魅力も無い。

 「手首を持ち歩く男」「紫陽花物語」の二作に関しては作者自身も「あまりに稚拙で泣きたくなってしまいますが」と述べているが、何故デビュー前の駄作を収録してしまったのか。(ファンサービスまたは記録的な意味合いだろうか)

 「月の光の輝く夜に」は幻想的な要素を含んだ男女の交流を描いた作だが、作者が理想とするヒロイン像が押しつけがましく嫌気が差す。架空の病気を持ち出すが、「小さな外傷や打撲等の内出血から、体内の臓器の出血を誘発し、吐血、下血を繰り返したのち絶命するという、未だに治療法の確立していない奇病」という酷い設定に展開を頼りすぎている。「まだらの紐、再び」に於いても架空の毒蛇を都合よく利用しており、僅か六編の中で二度も同じ過ちを犯しているのが皮肉である。せめてファンタジー小説として世に出したのであれば、凡作といえる内容なのが悔やまれる。

 全体的に価値感が幼いことも手伝って、ミステリーであるのに空想的で緊張感が皆無。シリーズの番外編としてファンのみが楽しむべき一冊ということだろう。

 どんな小説でも商業作品として世に出ている以上何かしら評価できるところがあるはずだが、本作は私には難し過ぎた。
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