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感想:『人間の土地』


『人間の土地』(著:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ、訳:堀口大學、新潮文庫)



 職業飛行士としての15年間の経験を基にしたエッセイ集。飛行士である個人の視点から、過酷な自然に並び立つ人間という種の持つ勇気や誇りを讃える人間賛歌的な内容。
 文体としては詩的レトリックが諄く、展開される理論も整然といていないことから序盤は読み難いが、砂漠に不時着し奇跡的な生還を果たした経験を語る8章では、その散文的な思想の羅列が危機感の現実味をよく引き出している。
 最終章では直面している戦争を題材に、「ぼくらは同じ地球によって運ばれる連帯責任者だ、同じ船の乗組員だ」と破滅に向かって憎みあうことに疑問を呈している。平和に生きるということは個々人が自分たちの役割を認識することであり、貧困や飢えという表層的な問題よりも個人の存在意義・正しく在るべき共生社会の崩壊こそ嘆くべきものと主張は経験からの説得力がある。

 直面する戦争もなく、砂漠を住居とするわけでもない現代日本人にとしても、享受している平和というものの本質について考えさせられる作品であった。
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