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感想:『夏への扉』


『夏への扉』(著:ロバート・A・ハインライン、訳:福島正実、ハヤカワ文庫SF)



 1956年発表、時間テーマのSFとして世に名の知れた傑作の一つ。

 機械技師・設計者として類稀なる才能を持つダニエル・ブーン・デイヴィス(通称ダン)が親友と興した会社の経営は家事労働を自動で担う「文化女中器(ハイヤード・ガール)」の発明を基に順調に発展していくものと思われたが、女詐欺師の計略によりダンは親友・財産・会社での立場さえも奪われ強制的に冷凍睡眠により三十年後の未来へ旅立つこととなる。

 前半までの現代サスペンスを三十年後の未来に到着してからの奮闘で引っ繰り返していく後半からが本題。プロットとしてはタイムマシンという機械仕掛けの神や、善意の協力者であるサットン夫妻の登場などご都合主義的な傾向が強いが、最終的にハッピーエンドとして掲げているのはダンが最も大事にしていた猫のピートと(20も年が離れてはいるが結婚を誓っていた)リッキィが妻として傍にいる生活に目標を定めて話を組み立てた結果ではないかと思われる。つまり、過程の仕掛けよりも結末の纏まりを重視したプロットだといえる。

 1950年代から見た「冷凍睡眠保険が事業として運営されている近未来」と「ロボットや重力制御により文明が大幅に発展した未来」の想像が細かな部分の描写から、読者にとっての現在の比較からという観点からも楽しめるというのは評価すべき点。

 登場人物の人格については行動指針は把握できるが、役割以上に働くべきところが無く、奥行きに欠ける。事象に対する素直な反応を必要とするSF小説故の特徴だろうか。
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