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感想:『山の音』


『山の音』(著:川端康成、新潮文庫)


 1949年から1954年の5年間に渡り、複数の雑誌に断片的に掲載された長編小説。
 「妻子を持つ壮年男性」の普遍的ながらも陰翳深い感性が、主人公を取り巻く複雑な家庭環境や、老いに対する恐れを題材の中心にして描かれている。
 四季の植物に対する日本人的な感心や、取り留めのない夢から思想を広げることが多く、生への疲れと執着が混在する主人公独自の感性が興味深かった。

 殊に序盤は、淡々とした日常の語りが多く散文的な印象が強いが、中盤より娘の離婚や息子の不倫など親として醜聞的な騒ぎに巻き込まれていくなど物語としての起伏も大きく印象がガラリと変わるのも印象的だった。

 また、家庭内の不和を中心として物語が動いてはいるが、必要以上に息苦しさを感じさせないのは自然そのものの持つ美しさと力強さを精緻に描く技量の高さ故であるといえる。
 積極的な主張のある作品ではないが、確かに「戦後日本文学の最高峰」と位置するに相応しい作品だった。
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